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第1回 弊社製造部で長年にわたって最終工程を担当している西村末良。 手のひらでお茶と語り続けてきた名人の思いを聞きました。 |
■この業界に入ったきっかけは?
兄が埼玉でお茶の小売りをしていました。その関係で私もお茶を習ってみようと思ったのがきっかけです。埼玉は狭山茶が有名ですが、そこで2、3年修業しました。その後、宇治に来させていただきました。毎日が勉強勉強でしたが、気がつくと、お茶の世界に入って41年目になります。
■修業時代に教わったことは?
お茶は“化け草”やとよく言われました。たとえば茶葉の色。朝と夕方とでは色が全然違います。天候によっても変わります。本当のお茶の色は晴れた日の朝の光の中で見るのが一番自然なんです。
湿気でもお茶は化けます。荒茶を仕上げていくのが私の役割ですが、大敵は湿気です。わずかでも湿気が入ってしまうと、茶葉がすぐに変色します。お茶って生き物なんです。だから、品質管理だけは徹底してくれと先輩方から教えられてきました。
■優れたお茶の条件とは?
ベスト3を挙げるなら、香り、味、形状です。これはどんな種類のお茶でも一緒です。
まず香りというのは、火入れの温度の加減が大きなウエイトを占めます。茶葉の状態を見極め、気温と湿度も考え、瞬時に温度や時間を決めます。これは勘というか、経験によるところが大きいかなと思います。
味については茶園の管理が大切です。とくに肥料ですね。油かすなどを使いますが、どの段階でどの程度与えるかということです。余談ですが、本玉露を作る場合は竹で柱を組み、茶樹の上にヨシズと藁をかぶせるんです。そうすると雨などで藁の成分が茶に移ります。それを茶摘みさんが手摘みしていきます。できたお茶は何ともいえないほど、まったりした旨み、香りがあります。深みのある味を出そうとしたら、やはり昔ながらの作り方が一番だと思いますね。もちろん、量は限られますが。
3番目に形状です。仕上げの段階で葉と茎と粉に分けます。これも熟練した勘が必要です。
■仕上げ作業で難しい点は?
私たちは仕上げのことを「再生」と言っています。この段階で難しいことは先にも言いましたが形状を整えるということです。機械に荒茶を投入するタイミング、ふるいにかける網の番数や時間の判断。これらはお茶の状態や天候によって変えなければなりません。

■後輩に対して一言。
当たり前のことですが、清潔で、丁寧な作業をすること。昔と違い、今は多くの作業が機械化されています。ですから、ケガがないよう、安全な作業をということをいつも念頭に置いて指導しています。
■西村さんの今後の抱負は?
これからも皆さんに宇治の美味しいお茶をお届けしたいと思います。しかし、どれだけ勉強しても、お茶というのは奥が深い。これだけやってきても完璧なものに仕上がったなと思うことは滅多にありません。どの作物もそうですが、私たちの仕事は自然が相手です。人間一人ひとりの顔が違うように、お茶の顔も毎年違います。難しいけれど、それだけに面白みのある仕事だなと感じています。
■一番美味しいと思う一服は?
何と言っても、仕事が終わったときに飲むお茶が美味しいです。最中や羊羹を食べながら、ほっとひと息というのが私には最高の一服です(笑)。※西村末良が作業をしている『仕上茶の製造工程』については、こちらをご覧下さい。http://uji-yanoen.com/?page_id=13